桜吹雪が舞う夜に
「……ほんとに、君には敵わないな」
日向さんが小さく笑い、私の手を離さずに導く。
ぎこちない。
どこにどう触れていいのかなんて分からなくて、指先が迷う。
でも――彼を想う気持ちだけは、本物だった。
「……桜」
掠れるような声が降ってくる。
見上げると、日向さんが目を細めて、堪えるように息を吐いていた。
(……できてる。わたしのせいで、気持ちよくなってる)
胸が熱くなった。
守られるだけじゃなく、自分も彼を満たせているんだと思うと、嬉しくてたまらなかった。
「……大丈夫。すごく……気持ちいいよ」
そう告げる声には、いつもよりも弱さが混じっていて。
それが愛おしくて、私はさらに彼に近づいた。
拙い手つきのままでも、心は確かにひとつに重なっていた。