桜吹雪が舞う夜に

ぎこちない私の動きに、日向さんは堪えるように目を閉じた。
熱を孕んだ吐息が、私の耳元をくすぐる。

「……もう十分だ。ありがとう、桜」
低い声でそう告げられて、手をそっと押さえられる。

「でも……」
もっと触れていたい気持ちがこみ上げて言いかけた瞬間、強く抱き寄せられた。

「これ以上は俺が……リードする」
唇が触れ、言葉の続きを奪われる。

それはいつもよりも熱く、けれど丁寧だった。
私が無理をしていないかを確かめるように、ゆっくりと確かめながら導いてくれる。

「……日向さん」
声にならない声で名前を呼ぶと、彼の瞳が近くにあった。
優しさと欲望が混ざり合ったその眼差しに、胸が震える。

――守られているだけじゃない。
私も応えようとしている。
そのことが、二人をより深く繋げている気がした。

外では波の音が絶え間なく寄せては返す。
そのリズムに重なるように、夜は静かに、けれど確実に深まっていった。

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