桜吹雪が舞う夜に
夢の話 Sakura Side.
夏の夜、窓を開けると蝉の声が遠くでまだ響いていた。
テーブルを挟んで、グラスに入った麦茶の氷が小さく音を立てる。
「……桜がまだ学生だってことは分かってる。
……ただ、先のことをどれぐらい考えてるか、確認させてほしい」
日向さんは静かな口調でそう切り出した。
真剣な目が、私を逃がさない。
「……先のこと、ですか? 例えば?」
「……将来、どの診療科に行きたいと思ってるか。どこで働きたいと思ってるか。
……君の思い描く未来に、俺がいるかどうかを知りたい」
少しだけ視線を落として、私は両手を重ねる。
(未来なんて、まだ遠い。だけど――)
「……日向さんとは、一緒にいたいですよ? ずっと」
それは迷いのない気持ちだった。
けれど、次の問いには答えに詰まった。
「診療科は……まだ、分かりません。
水瀬先生に見せてもらったERも、正直、憧れだけはあります」
言い終えてから、胸がきゅっとした。
彼の顔色を伺うのが怖かった。