桜吹雪が舞う夜に



目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む光が白いシーツを照らしていた。
波の音は昨夜と同じはずなのに、どこか柔らかく聞こえる。

隣では、日向さんが静かに眠っていた。
規則正しい呼吸。大きな掌が、無意識に私の手を握っている。

少しだけ体を起こして、その横顔を見つめる。
昨夜の熱がまだ頬に残っていて、思い出すだけで胸がくすぐったくなる。

(……幸せだな)

そう思った瞬間、笑みが零れてしまった。

やがて日向さんがゆっくりと目を開ける。
「……おはよう」
かすれた声が、胸に沁みる。

「おはようございます」
囁くように返すと、彼はまだ眠たげな瞳で私を見て、ほんの少しだけ唇をゆるめた。

言葉はそれ以上なくても、十分だった。
穏やかな朝の光に包まれて、ただ二人で並んでいることが、何よりも満たされていた。


< 203 / 306 >

この作品をシェア

pagetop