桜吹雪が舞う夜に
日向さんは腕を組み、少しの間黙っていた。
やがて、深く息を吐く。
「……桜。ひとつ、はっきり言っておく」
顔を上げる。
瞳に映ったのは、優しさよりも厳しさを帯びた日向さんの表情だった。
「俺はあくまで君に現実的な選択肢を提示する。
世の中、水瀬みたいに強くいられる方が稀だ。
現実問題、君は女性だし……俺はつい、男より体力もない、いつか出産もする、そういう“色眼鏡”で見てしまう。
ある意味、蔑視と捉えられても仕方ない考え方だ」
胸に、ざらりとした言葉の重みが突き刺さる。
日向さんは言葉を区切り、低く続けた。
「ーーこの世界で長くやっていきたいと思うなら、そういったことは当然考えて、理想との折り合いをつけるべきだ。俺と一緒にいたいと思ってくれてるなら、尚更」
しんとした空気。
私は唇を噛み、視線を揺らした。
「……日向さんは、私のこと……信じてないんですか」
その問いかけに、彼はは小さく目を伏せる。
「信じてる。けれど、それでも現実は残酷だ」
言葉と想いがかみ合わず、二人の間にはどうしようもない距離が横たわっていた。