桜吹雪が舞う夜に
その夜、部屋に帰ると、メッセージアプリでジャズバーの店長である友人の朔弥にメッセージアプリで連絡を入れた。
『朔弥。こないだ女の子のバイトが欲しいってぼやいてたやつ、まだ募集してる?』
返信は思いの外すぐ返ってきた。
『おっ。日向が紹介してくれんの?どんな子?』
指先が一瞬止まる。紹介すると言っても、軽々しく「彼女」と明かしていいのか。
けれど、もう隠す理由もないのだと自分に言い聞かせ、短く返す。
『医学部の学生なんだけど、真面目でいい子だよ。
今度、紹介がてら店連れてっていいか?』
『学生!大歓迎!!
でも……医学部かぁ。忙しいんじゃないの?シフト入れるの?』
『週2くらいなら大丈夫だと思う。勉強優先させたいし』
一呼吸置いて、またすぐに返事が来た。画面の向こうでニヤついている顔が想像できて、思わず眉間に皺が寄る。
『了解。
……てか、お前がわざわざ紹介するって、もしかして特別な子?』
『そう。大事な子だから、あんまり夜遅くまで無理させないで』
送信した瞬間、胸の奥に微かな熱が広がる。自分が「大事な子」と言葉にしたことに、改めて気づかされる。
『まさか……日向の彼女?』
数秒、スマホの画面を見つめたまま動けなかった。
けれど指先は迷わず、ただひとことだけを打っていた。
『そうだよ』
『マジかよ……!!
えー、やっとかー。お前に彼女出来たって聞くの、5年ぶりくらいじゃない?笑
紹介楽しみにしてるわ』
『茶化すな。普通に頼むぞ』
『はいはい、心得てますって』
送信音と同時に、どこか安堵に似た感覚が胸に広がった。
ーー彼女のことを「彼女」と他人に言えるのは、こんなにも誇らしいものなのか。