桜吹雪が舞う夜に


その日の夜は、あくまで自然な流れだった。
言葉にするよりも前に、互いの温もりを求めてしまった。

「……疲れてないんですか。明日も朝から仕事なんですよね」
そう問いかけると、日向さんは微笑んで、私を抱き寄せた。

「疲れてるからこそ、抱きたくなる時があるんだ」

その声に、胸が熱くなる。
甘やかされるように抱きしめられながら、私はずっと胸の奥にしまっていたことを口にした。

「……日向さん。ずっと気にしてたこと、言っていいですか」

「何だ」

「いつも必要以上に気を遣って、私のことばっかり優先してくれるのは……嬉しいです。
でも、なんだか……日向さんが我慢してるみたいで、苦しくなるんです。
私、もっと自然に、対等に……一緒に感じたいのに」

一瞬、彼は目を伏せた。
やがて小さく息を吐き、穏やかな声で返す。

「……俺としては、君が満足してくれるなら、それで十分なんだけどな」

その言葉に胸がきゅっと痛む。
でも次の瞬間、彼はふっと苦笑して肩をすくめた。

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