桜吹雪が舞う夜に
「……でも、君がそう言うなら……そうだな」
そう言って、ふいにベッドサイドに置いていたスマホを手に取った。
真剣な表情のまま、画面を私に差し出す。
「……試したい体位があるんだ。こういうのなんだけど」
一瞬、何を見せられているのか理解できなかった。
けれど、画面に映っているイラストを見た途端、顔が一気に熱くなる。
「ひ、日向さん!? な、なに考えてるんですか!?」
慌てて顔を逸らす私をよそに、日向さんは淡々と説明を続けた。
「医学的にも、女性がオーガズムに達しやすい体位らしい。筋肉の角度と圧のかかり方で――」
「ちょっ……! もう! そういう説明いらないです!」
耳まで真っ赤になっているのが、自分でも分かる。
必死で抗議する私を見て、日向さんはふっと口元を緩めた。
「……やっぱり無理か」
「む、無理です! 絶対!」
私は思わず布団を引き寄せて、その中に顔を埋めた。
すると、彼の低い笑い声が耳に落ちてくる。
「分かった。からかいすぎたな。……悪い。
ーじゃあ、いつも通りでいいな」
布団越しに抱き寄せられる。
不器用で、でも誰よりも優しいその腕に包まれながら、私は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。