桜吹雪が舞う夜に

結局、その夜はいつも通りだった。
互いの呼吸を確かめ合いながら、時間をかけて触れ合い、心も体も解けていく。

「……日向さん」
終わったあと、小さな声で名前を呼ぶと、彼は短く「ん」とだけ返して、私を腕の中に抱き寄せた。

窓の外からは、秋の虫の澄んだ声が聞こえてくる。
夏の名残を残しながらも、空気はどこか冷たく、カーテンの隙間から入り込む夜風が肌を撫でていった。

「……やっぱり、安心するな」
そう呟いた彼の声は、驚くほど穏やかで、子供みたいに無防備だった。

私はその胸に耳を当てたまま、目を閉じる。
守られているのに、同時にこの人もまた私に寄りかかってくれているようで。
そのことが、不思議と嬉しかった。

外を流れる風は、もう夏の湿気を含んでいない。
どこか乾いていて、心まで澄んでいくようだ。

「……今だけでいい。こうしていてくれれば、それで」
囁くような声に、私はただ小さく頷いた。

やがて二人の呼吸が重なり、静かな秋の夜に溶けていった。

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