桜吹雪が舞う夜に


しばしの沈黙のあと、彼は短く言った。

「……もう寝ろ」

胸が詰まり、私は小さく首を振った。
「……ごめんなさい。今日は帰らせてください」

日向さんの目がわずかに揺れる。
「……そうか。なら、送ってく」

「いらないです」
思わず語気が強くなった。

「……何時だと思ってるんだ」
低い声に、思わず肩が震える。

「いいです。一人で帰れますから」

互いの視線が絡み、言葉にならない思いがぶつかり合う。
その空気に耐えきれず、私はコートを掴んで立ち上がった。

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