桜吹雪が舞う夜に
駅から自宅まで歩き、玄関の鍵を回した。
部屋に入っても、冷えた空気がそのまま胸の中に広がっているようで、落ち着かない。
コートを脱ぎながら携帯を取り出す。
画面に映る沢山の履歴が残るトーク画面。
――「必ず着いたら連絡してくれ」
指が震える。
本当は、もっと言葉を送りたかった。
でも何も言えない。
私は短く打ち込んだ。
「帰りました」
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がじんわりと痛んだ。
既読がついても、返事は来ない。
(……やっぱり、遠い)
携帯を伏せ、ベッドに沈み込む。
溢れそうな涙を必死でこらえながら、私は毛布を頭まで引き上げた。