桜吹雪が舞う夜に

駒 Hinata Side.



正直、桜と喧嘩したからといって、関係を修復するための十分な時間は取れなかった。

講義担当の件で時間を奪われ、事実確認調査や教授との面談、余計な会議が次々と発生し、実務すら思うように回らない日々が続いていた。

本来ならこちらから連絡を入れてフォローすべきだったのに――あれから桜には一度も連絡をしていない。

ただ、今まで家に帰れば桜が笑顔で出迎えてくれていた。
その支えを失ったことが、思った以上に大きくのしかかっていた。

それでも、歩み寄るべきなのは自分だと分かっている。
分かっているのに、指先はスマートフォンを掴めず、ただ無為に時間だけが過ぎていった。


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