桜吹雪が舞う夜に
ドアを閉めた瞬間、背後の温もりが断ち切られた。
夜風が頬に触れると、張り詰めていたものが一気に崩れそうになる。
(……どうして、こんなことになっちゃったんだろう)
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
涙が滲むのを必死でこらえながら、私は駅へと歩き出した。
携帯がポケットで重く感じる。
「着いたら連絡してくれ」――あの言葉が耳に残って離れない。
本当は、心配してくれているのが分かる。
でもそれ以上に、遠ざけられている気がして、どうしようもなく苦しかった。
街灯に照らされた歩道を、一人、足早に進む。
吐く息が白く揺れて、視界が滲んでいた。