桜吹雪が舞う夜に

初雪の夜 Sakura Side.



外は雪が舞っていた。
街灯の下、白い粒が静かに降り積もっていく。

夜、自宅でサークルの雑務を片付けている最中に携帯が震えた時、思わず心臓が跳ねた。
画面に映った「御崎日向」の名前。……二週間ぶりだった。

受話器の向こうから聞こえた声は、いつも通りを装っていた。
けれど耳を澄ませば、その奥に疲労の滲む響きが隠しきれず漂っていた。

「……桜?」

名前を呼ばれただけで、胸が熱くなる。

「ごめん。しばらく忙しくて、全然連絡できてなかった」

「……」

沈黙に気づいたのか、彼は急いで言葉を継いだ。
「……大丈夫。怒ってなんかないよ。この間は、少し、言い方がキツかったよな。……ごめん」

その声に、胸の奥がきゅっと締め付けられた。
彼の方こそきっと辛いのに、いつだって謝るのはこの人だった。

受話器越しに、小さく息を吐く音がする。

「ーー今日の夜、家来れるか?
 仕事……今日は早めに終われると思うんだ」

降り続く雪の静けさが、答えを急かすように胸に響いた。
私は深く息を吸い込み、声を震わせながら返事を口にする。

「……はい。
 ……私も、会いたいです」

電話の向こうで、日向さんが小さく息を漏らすのが分かった。
安堵と寂しさが入り混じったその吐息に、胸が熱くなる。

「……ありがとな。仕事終わったらまた連絡する。
 駅までは迎えに行くけど……雪道だから、気をつけて来て」

通話が切れたあとも、その優しい声だけが、耳の奥に残り続けていた。




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