桜吹雪が舞う夜に
夜の街に、雪がしんしんと降り続けていた。
駅の出口を出た瞬間、吐息の白さの向こうに背の高い人影が見えた。
「……日向さん」
名前を呼ぶと、彼が振り向いた。
街灯に照らされた横顔は、肩やコートに雪を積もらせていて、いつもより少し痩せて見える。
その姿に胸がきゅっと痛む。
「遅くなった」
落ち着いた声が耳に届く。
でも、その奥に疲れの影が滲んでいるのを私は見逃さなかった。
「私が……会いたいって言ったんですから」
強がるように笑ってみせたけれど、目頭が熱くなって、慌ててうつむいた。
その瞬間、彼がそっと近づいてきて、私の首に掛けたマフラーを直してくれた。
温かさが頬に触れた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「寒かったろ」
短い言葉なのに、堪えていた涙があふれそうになる。
「……でも、あったかいです」
声が震えてしまった。
舞い散る雪の中、ただ見つめ合って立ち尽くす。
言葉はなくても、「会いたかった」という気持ちだけで胸がいっぱいになった。