桜吹雪が舞う夜に
カーテンの隙間から差し込む朝の光で目を覚ました。
隣には日向さんが静かに眠っている。
腕はまだ私を抱き寄せたままで、その温もりが心地よくて、しばらく身じろぎもできなかった。
(……昨日の夜、あんなふうに縋ってきたのは初めてだった)
胸の奥が切なくなる。
強くて、隙を見せない人だと思っていた。
でも、本当は不安も恐れも抱え込んでいて――それをやっと、私に見せてくれたのだ。
彼が小さく息をつき、目を細めてゆっくりと目覚める。
「……おはよう」
掠れた声に、思わず笑みがこぼれた。
「おはようございます」
少しの沈黙の後、彼は視線を私に向け、穏やかに微笑んだ。
「……大丈夫だ。もう、落ち着いた」
その言葉に、胸がじんと熱くなる。
彼の瞳にはまだ疲れの影が残っていたけれど――
それでも昨夜よりずっと柔らかい光が宿っていた。
「……お陰で覚悟が出来た」
突然の日向さんの声に、私は息を呑んで顔を上げる。
彼は真剣な眼差しで、まっすぐにこちらを見ていた。
「正直、教授の言いなりになるのは気に食わない」
言葉を吐き出すように続ける。
「でも……俺もあの人と一緒に、抗ってみる」
胸が強く跳ねた。
「……抗う?」
彼は小さく頷いた。
「君と付き合ったことで、今まで積み上げてきたものが崩されるなんて……納得いかない。
だから、俺は俺のやり方で守る。どんな形になっても」
その瞳には、迷いと同時に確かな強さが宿っていた。
私は涙ぐみながら、ただその言葉を受け止めることしかできなかった。