桜吹雪が舞う夜に
権力 Hinata Side.
午後から自分の処遇が決定される会議が開かれていた。
向坂先生は何も喋る必要はないと言った。
俺も、正直つい先日まではもう流されるがままでいいと思っていた。
それでも、考えれば考えるほど納得がいかなかった。
彼女と付き合った。ただそれだけのことで、キャリアを犠牲にしなければいけないなんて馬鹿げてる。
重苦しい空気の中、俺は手元の書類を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。
「……まず、確認させてください」
視線が一斉に集まる。
それでも怯まずに言葉を続けた。
「学生と付き合うこと自体に、医学部の規定上、明確な禁止規定はありませんよね?
その点をまず確認させてください」
一瞬、場にざわめきが走る。
誰も即答しないのを見て、さらに声を強めた。
「ーー納得がいきません」
自分でも驚くほど低く、強い声が会議室に響いた。
「俺はこれまで、循環器内科の助教として、職務倫理に従い誠実に仕事に向き合ってきました。
講義も研究も診療も、全てです」
ゆっくりと言葉を区切りながら、教授陣を見渡す。
「医学部の低学年の成績は皆さんご存知の通り殆どペーパーテストの成績によって決定されます。自分の講義だって例外じゃない。私情を挟む余地なんてない。
教授が自身の子息の講義を担当することは許されている。
では、どうして俺だけが講義担当を下ろされなければならないんですか。
その説明を、きちんとしてください」
会議室に沈黙が落ちる。