桜吹雪が舞う夜に
「ディズニーランド……鎌倉……」
桜は指先で鞄の持ち手をいじりながら、真剣に悩んでいる顔を見せた。
「正直、どっちも行ったことなくて」
そう呟く声が、意外で日向は思わず視線を向ける。
「どっちも?」
「はい。中高ずっと、勉強とか部活で忙しかったので……」
少し恥ずかしそうに笑う彼女を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
「じゃあ、鎌倉のほうがいいかもしれないな」
自然と口をついて出る。
「初めての遠出でディズニーは……少し気合い入れすぎてる気がするし。鎌倉なら海もあるし、落ち着いて回れる」
「……いいですね、鎌倉」
桜はゆっくりと頷いて、目を細めた。
「お寺とか、神社とか、歴史のある場所……私、好きです」
「よし。じゃあ鎌倉にしよう」
そう決めると、不思議と肩の力が抜けた。
計画を立てるのは苦手じゃないはずなのに、彼女が相手だと「楽しませたい」という気持ちが先に立ってしまう。
「……楽しみにしてます」
桜が少し俯きながら呟いた言葉に、日向は頷く。
ーーきっとその日が来るまで、この約束を何度も思い出すだろう。