桜吹雪が舞う夜に
桜の唇がわずかに震えた。
それでも逃げない。
その事実が、俺の胸の奥に火をつけた。

「……桜」
名前を零した瞬間、堪えきれなくなった。

浅く触れるだけだった唇を、今度はしっかりと重ねる。
桜が息を呑み、わずかに身を引こうとするのを、離さず抱き寄せた。

抵抗は一瞬。
そのあと、小さく震える肩が、俺の胸に預けられる。
シャツを掴む手に力がこもり、彼女の吐息が唇に触れた。

「……っ」
抑えきれず、唇を開いて舌先で触れる。
桜がびくりと震えた。
それでも俺は逃がさない。

深く触れ合った瞬間、頭の中が真っ白になる。
互いの息が絡み合い、彼女の体温と鼓動が直に伝わってくる。

――もう止められない。

彼女の背を抱き寄せ、さらに深く、確かめるように舌を絡めた。
桜はかすかに震えながらも、瞼をぎゅっと閉じて受け入れてくれている。

熱と甘さと、少しの切なさ。
それが溶け合って、時間の感覚が消えていく。

やっと離したとき、桜は肩で小さく息をしていた。
頬は赤く染まり、潤んだ瞳が揺れている。

「……ごめん」
声が掠れた。謝りながらも、もう一度触れたい衝動が収まらない。

桜は小さく首を振った。
「……嫌じゃ、ないです」

その囁きに、心臓を掴まれる。
もう一度、彼女を強く抱き寄せ、唇を重ねた。
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