桜吹雪が舞う夜に
『じゃあ、いつそういう関係になる?』
朔弥の声が頭の中で蘇る。
彼女を壊したくない。怖がらせたくない。それは、心からの本心のはず、だった。
「……ごめ……」
それでも抱き寄せた瞬間、彼女の細い身体に、自分の熱がぶつかってしまった。
「……当たってるよな。……自分じゃ制御、出来なくて」
桜が小さく息を呑むのが伝わる。
腕の中で身じろぎした拍子に、下腹部を擦られ、理性がきしむ。
「……あ、の。これって」
恐る恐る問いかける声。
もう隠すことなんてできない。
彼女の瞳を真正面から見て、吐き出した。
「……俺も、男ってことだよ」
沈黙が一瞬だけ二人を包んだ。
鼓動がやけに大きく聞こえる。
このまま押し倒してしまったら、戻れないと分かっているのに――想像だけで喉が渇く。
だからこそ、どうしても確かめたかった。
彼女が、この先を受け入れる覚悟を持っているのか。
それとも俺だけが勝手に暴走しているのか。
「……桜」
声がかすれる。
「聞きたいことがある」
視線を外さないまま、絞り出す。
「セックスの経験は、あるか?」
桜が息を呑む音が、はっきりと聞こえた気がした。