桜吹雪が舞う夜に
大学一年、秋
空白 Sakura Side.
後期の授業が始まった。
日向さんとは、いつも通りの生活をしばらく送った。
たまに予定が合う時に会って食事をして、
バイトが入っている時にはジャズバーで何気ない会話を交わす。
先日の夜のことなんて、まるで幻だったみたいに。
彼は何もなかったかのように接してきて、家に誘うことも、触れてくることもなかった。
――やっぱり、大人だ。
自分だけが気にして、揺れている。
けれど、胸の奥のざわめきは消えなかった。
親しい友人に、思い切って打ち明けたことがある。
「セックスって……楽しい?」
声にするだけで顔が熱くなり、相手は驚いた顔をしてから、からかうように笑った。
返ってきた答えは人それぞれだった。
「好きな人となら、最高に幸せだよ」
「痛いだけだったって子もいるけど」
「……正直、別にって思った」
色んな反応を聞いても、やっぱり分からなかった。
少なくとも自分は、あの夜を「楽しい」と思えなかった。
ただ必死で彼に応えたけど、どうしても自分の心は置き去りになっていた気がする。
――じゃあ、あの時日向さんは?
彼にとっても、ただの衝動だったんだろうか。
それとも、自分だけが分かっていないのだろうか。
そんな問いばかりが、秋の冷たい風とともに胸を刺した。