桜吹雪が舞う夜に
春。大学の入学式の日。
正門前で再び彼女と向き合ったとき、その決意は揺らいだ。
「ーー日向さんが、好きでした」
あのときの彼女の瞳は、告白というより「宣言」に近かった。
自分のすべてをかけて、迷いなく俺を真っ直ぐに見ていた。
……玉砕覚悟の告白だと、すぐに分かった。
当然だ。俺はもう三十を超えた大人で、彼女はまだ十八。
立場も年齢も、何もかもが釣り合わない。
まだ若い彼女に寄ってくる男は他にもいただろうに、よりにもよって、彼女は俺を選んでしまった。
だから、本来なら振るべきだった。
一線を引き、彼女の未来を守るべきだった。
ーーけれど。
「日向さん……待って、どうして……?」
あのとき、震える声でそう言った彼女を抱きしめてしまった瞬間、全てが崩れた。
理性も、距離感も、年齢差という壁も。
俺はただ、嬉しさに飲み込まれていた。
この胸にある感情を、もう否定できないと悟った。