桜吹雪が舞う夜に
薄暗い部屋。
静寂に包まれた空間で、シーツを握りしめる自分の指先が小さく震えているのがわかる。
胸の奥で暴れる心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。
「……知りたいことがあるんです」
自分でも驚くほど小さな声だった。
ベッドの縁に座る日向さんが、ゆっくりと目を細めてこちらを見た。
「……なんだ」
低く落ち着いた声が、夜気に溶ける。
私は一瞬だけ視線を逸らし、深呼吸をしてから、真っ直ぐ彼の瞳を捉えた。
「日向さん、いつも……私に触れるとき、繊細な美術品に触れるみたいに優しいですよね」
声に熱が滲む。
「……気を遣ってくれてるんだって、とても嬉しいんです」
日向さんは何も言わず、ただ黙って受け止めてくれていた。
その沈黙が逆に心を突き動かす。
「でも……」
私はぎゅっと唇を噛んだ。
「同時に、いつも鎧を脱いでくれないみたいで……悲しいって思ってしまうんです」
その言葉を落とした瞬間、部屋の空気がさらに張り詰めた。
彼の横顔は薄闇に沈み、表情は読み取れない。
けれど、その静かな気配が、かえって胸を締めつけた。
だから、最後の勇気を振り絞って言葉を投げた。
「……その鎧。脱いだらどうなるか……知りたいんです」
声は震えて途切れそうだった。
けれど確かに届いた。
日向さんの瞳が一瞬揺れ、大きく波打つのを、私は見逃さなかった。