桜吹雪が舞う夜に
呼吸 Hinata Side.
胸の奥に鋭い棘が刺さったような感覚が走った。 彼女は分かっていない。俺がどれほどの欲を抱えて、どれほど必死に押し殺しているか。 解き放った途端に、自分の衝動で彼女を傷つけてしまうことを。
「意味……分かって言ってないだろう。簡単に、言わないでくれ」 掠れた声が勝手に震える。
理性を手放すこと。それは、彼女を壊すこととほとんど同義だと思っていた。 優しさで覆っているのは、守りたいからじゃない。 自分が抱え込んでいる欲望を、彼女に悟られないようにするための鎧だった。
「……できない。そんなことしたら、君が壊れるって、分かってる」
必死にそう告げる。 だが彼女はかぶりを振り、真っ直ぐに俺を見上げた。
「あなたになら、どんなに乱暴にされたって構わない。もう、気なんて使わないで下さい。……私が見たいのは、そんな日向さんです」
その瞬間、胸の奥で何かが切れた。