桜吹雪が舞う夜に
荒い息が、なかなか整わなかった。
濡れた髪をかき上げながら、視線を落とすと、桜の身体は汗に濡れ、荒々しい痕跡がいくつも残っていた。
胸の奥がひどく痛んだ。
――俺は、ひどいことをした。 ずっと大切にしようと思っていたのに、気を遣わなくていいと言われた途端、欲望に溺れて、彼女の身体を抱き潰すようにしてしまった。 理性を投げ捨て、ただ自分の快楽に身を任せて。
「……ごめん。乱暴、だったな」
搾り出すように声を落とすと、隣で横たわる桜が、ゆっくりと首を横に振った。
「違います。……日向さんだから、よかったんです」 掠れる声でそう囁き、弱々しくも微笑む。
その一瞬で、張り詰めていた罪悪感が、涙に変わりそうになった。 赦されている。 こんな自分を、彼女はまだ信じてくれている。
胸が焼けるように苦しいのに、同時にどうしようもなく救われていた。 自分が人として最低な衝動に流されても、なお受け入れてくれる彼女がいる。
――こんな幸せが、この先も続く保証なんてないのに。 だからこそ、たまらなく愛しく思った。