社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「水城。」

デスクに戻ろうとしたその瞬間、背後から直哉さんに呼び止められた。

「はい、社長。」

振り返ると、彼は人目を憚るように小さなメモ帳を差し出す。

ーー『今から社長室に来れるか。』

紙に書かれた文字を目にしただけで、胸がどきりと高鳴った。

彼の真剣な視線を受けて、私は小さく頷く。

「この会議、君にも出席して欲しい。」

「分かりました。」

ほんの一瞬目を合わせて応じた。

彼がそのまま社長室に向かうのを見送りながら、私は一旦デスクに戻る。

ここで怪しまれてはいけない。

「ちょっとお手洗い、行ってきます。」

そう言って自然に席を立った。

内心は早鐘を打つような鼓動でいっぱいなのに、足取りだけは平然を装う。

――でも、誰も気づいていないはず。

オフィスのドアを閉めると同時に、私は小さく息を吐いた。
< 118 / 273 >

この作品をシェア

pagetop