社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「何で、バレれば謹慎だって分かってるのに、皆、社内恋愛するんだろ。」

岸本さんの言葉は冷たくも正論だった。

「……岸本さんは、彼氏いるんですか?」

何気なく尋ねると、彼女は迷いなく頷いた。

「いますよ。別の会社に。」

やっぱり――と胸の奥で思った。

こういう社則を守れる人って、それ相応に環境を整えているのだ。

だから余裕なのかもしれない。

「水城さんは、どうなんですか?」

「私は……いないですけど。」

素直に答えると、岸本さんはふっと笑みを漏らした。

その笑いはどこか含みを持っていて、私の心をざわつかせた。

「早く作った方がいいですよ。社長に振られるのは目に見えてますから。」

――振られる?

耳の奥にその言葉が突き刺さる。

まるで最初から私の気持ちを見抜いているかのように。

「では。」

完璧な笑顔を残し、岸本さんは踵を返して去っていった。

私は立ち尽くしたまま、握りしめた手のひらに爪が食い込んでいることに気づいた。

胸の奥で、誰にも言えない想いがいっそう強く疼いていた。
< 26 / 273 >

この作品をシェア

pagetop