社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「そのまさか。」

低い声が返ってきて、心臓が跳ねた。

「遥香。」

名を呼ばれた瞬間、体がびくんと震える。

「……こっち向いて。」

恐る恐る顔を上げると、そこには至近距離の彼の顔。

息が詰まるほど近くて、目が逸らせない。

「……何もしないか。……何で俺、そんなこと言っちゃったんだろう。」

「しゃ、社長……」

耳まで熱くなる。――それは、どういう意味?

答えを探す間もなく、社長は私のグラスを手に取り、ワインを注ぎ足した。

深紅の液体がきらめきながら揺れ、静けさを一層濃くする。

「……いっそ、酔ってしまえばいい。」

囁くように言って、グラスを差し出す社長。

その瞳には、優しさと、危ういほどの熱が宿っていた。
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