社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「あの、今回の規則違反についてですが。」

思い切って切り出すと、直哉はふっと視線を落とし、冷めた目で私を見た。

ひぃ……っ! 背筋が凍る。

「ああ。君は木村と仲が良かったからな。」

「い、いいえ……」

慌てて否定しかけたが、言葉にならず、私はバッグをぎゅっと抱きしめるしかなかった。

「不倫なんて、社会においてはそもそも許されないことだ。」

静かな声なのに、ひとつひとつの言葉が鋭く突き刺さる。

胸の奥で弥生のバツの悪そうな笑顔が浮かんだ。

あの明るさの裏に、どれほどの後悔と苦悩を抱えていたのだろう。

私は目を伏せ、ただ黙ってエレベーターの階数表示を見つめ続けた。

「それでも、人は落ちてしまう時があるんです。」

思わず口をついて出た言葉に、直哉の鋭い視線がこちらへ向けられる。

「……何に?」

「恋に。」

エレベーターの機械音が、無造作に響き渡った。
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