本日、仕事のために愛されママになります~敏腕社長は契約妻への独占愛を手加減しない~【愛され最強ヒロインシリーズ】
山城に指定されたのは繁華街から少し離れた場所にある料亭だった。
都心にありながら緑深く、静けさの中に佇む立派な日本家屋は手入れの行き届いた庭を有する広大な土地にある。
青葉には会食で帰りが遅くなる連絡を昼のうちに入れたが、久しぶりの夜の外出はなんとも心許ない。それはおそらく、相手が山城だからというのもあるだろう。
(早く切り上げて帰れるようにしよう)
タクシーで乗りつけた莉乃は女将の出迎えを受け、中に足を進めた。
奥座敷へ続く廊下は、磨き込まれた床板がしっとりと艶めいている。静寂の中、わずかに聞こえるのは庭の水鉢に落ちる水の音だけ。都会にいるとは思えない空気が立ち込めていた。
山城は案内された部屋にいた。
「お待ちしていましたよ、寺西社長……っといけない、夏目社長でしたね」
わざとらしく訂正されたその言葉に、莉乃は口元を引きしめた。旧姓を口にする意図はなんなのか。
軽く流すべきか、それとも牽制すべきか。一瞬の迷いのうちに山城の口角がわずかに動いた。
「ともかくお座りください」