内部監査部室長は恋愛隠蔽体質です



 hermitに着くと話が通っているのか、先に着いた室長の元へ案内された。hermitの名の通り、店構えは高級感があるものの喧騒と切り離された世界観を演出する。
「お待たせしてすいません」
 挨拶しつつ個室に入ると私服姿の室長が着席していた。

(わざわざ着替えてきたの? わたし、スーツのままなのに)
 そんな焦りを気取られないないよう彼を観察。
(約束をキャンセルされたと言っていたし、着替えを持ってきていても不自然じゃないか)
 わたし相手にオシャレをする必要があるかは別問題として、ひとまず納得。

「飲み物はどうしますか?」
「……ノンアルコールでお願いします」
 この空気だと食事を用意されている。建て前上はコーヒーを飲みに来たといえ、雰囲気を壊しにくい。

「苦手な食材はありますか?」
「いえ、特に。あの、こういったお店の予約をキャンセルするのが難しいのかもしれませんが、他に誘う人がいらっしゃるのでは?」

 少なくとも自分がデートの穴埋めの第一適合者ではないだろう。

「松村課長なら大丈夫かと」
「社内の人間に目撃されても?」
 きっと店内では客同士が行き交う事がない配慮をしてある。わたしがここへ着席するまで誰とも会わなかった。

「……室長と食事をしても妙な気を起こさない?」
 言い直せば、彼は頷く。
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