告発のメヌエット
第1章 偽りの舞台
プロローグ
私のピアノは、いつもお父様と一緒に奏でる。
そして、世界を駆け抜けていく。
私はお母様が作ったドレスを身に纏い、脚光を浴びる。
いつもお父様とお母様とともに、舞台に立っているの。
私のピアノの先生は、とにかく基本にうるさい。
でも、そうしていると楽譜が語りかけてくる。
「僕はこんなつもりで曲を作ったんだ」って。
だから私はこう言うの。
「私ならこう表現するのだけれどもなぁ」
先生の教える音楽は、基本のその先にある、自由な世界。
もっと自由に、もっと豊かに……楽しんで!
お客様が私の音楽に酔いしれ、衣装に憧れる。
その衣装を作っているのはお母様、コレット・ハイマー。
この時代に服を「買う」ことを広めた人。
人気ブランド「コレット・コレクション」を作ったの。
お母様の服は大人気。私はそのモデルとして舞台に立つの。
ハイマー商会を率いるお爺様やグランお兄様も、事業を後押ししてくれる。
だからね、お父様。
あなたが守ってくれたものを、今度は私が守ってみせる。
だって私は、貿易都市を発展させた、偉大な父、カミルの娘ですもの。
お母様、いつも苦悩の中に身を置いていたわね。
でも、もう大丈夫――
こうして私は舞台の上で、輝いているのですから――
私はまだ知らなかった、あの時お父様が抱えていた苦悩を……
私と一緒にピアノを奏でたら……安心しておやすみなさい。
すべての始まりは、おじ様からお母様に宛てた一通の手紙だった。
コレット・ハイマー殿
弟のカミルより貴女との離婚の申し出があり、それを受理した。
今後、婚姻関係を解消し、子の養育は貴女に任せる。
二人の子については、今後ラタゴウの姓を名乗ることを禁ず。
帝国歴236年7月18日
領主 アルベルト・ラタゴウ
――これは、お父様とのお別れから、再起と復讐に懸けた、お母様と私の物語。
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