告発のメヌエット
第14話 画策
エダマの街の変りようは、ほどなく帝都に伝えられた。
「私はケイトと申します。エダマの街で運送業を営んでおります。
この度は当社をご指名いただき、ありがとうございました。
旦那様とコレット様にお話ししたいことがございます。
お取次ぎを願えますでしょうか。」
ケイトが挨拶をすると、トーマスが応対した。
しばらく待っていると、
「旦那様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ。」
「感謝します。」
ケイトはトーマスに案内されて執務室に通された。
「まぁ、ケイトじゃないの、久しぶりですね。お元気そうで何よりですわ。」
「はい、おかげさまで。旦那様もお元気そうでなによりです。」
「カミル君のことではすっかり世話になったな。
子供たちも君に会えて喜んでいたから、可愛がってもらえていたのだろう。」
「そんな滅相もない。エダマの街では交易の事務をコレット様が担当されていたので、仕事の付き合いがあっただけですよ。
代官邸に行くとかわいい二人が顔を出してくれましてね、こちらが元気をもらっていたくらいです。」
「それで、折り入ってお話とは?」
ケイトはエダマの街で起きた新代官就任の件や、オルフェ侯爵家のキャロル嬢との婚約、代官名で出された布告のことを話した。
その話を聞いて父もトーマスも黙り込んだが、その表情は怒りに満ち、拳を固く握りしめていた。
「そこで誠に心苦しいのですが、次回から取扱商品と運送費の値上げをお願いしたく、お伺いに参った次第です。」
父は少しの沈黙の後、
「そうだな、商品に関税がかけられる以上、商品の値上がりやコストの上昇は避けられまい。
委細承知した。細かいことはトーマスと話をしておいてくれ。」
「かしこまりました。」
「ところでエダマの街はどう? みんな元気にしているかしら。
また機会があれば見に行きたいわ。」
「コレット様、それはお控えになったほうがよろしいですよ。」
「どうして?」
「オルフェ侯爵家のお話はご存じですか?
やり方に反対するものは排除されることを。
先日布告を出したばかりですので、反対するものを陰で調べているのです。
我々の行きつけの酒場にまで密偵がいる始末ですから。」
「そんな、みんなで街を大きくしようって、頑張っていたじゃない。」
「ええ、街が大きくなってから奪いに来たのですよ。
おかげで侯爵家に異を唱える者はいなくなりました。
皆は死んだ魚の目をしております。」
「ラタゴウの家の者は?」
「17歳のルドルフ坊ちゃんは、すっかり女狐に飼いならされておりますよ。
今ではすっかり恰幅が良くなって、お父上と見分けがつかないくらいです。」
「そうなのね……ありがとう。
あの子も小さい頃は、私にもよく懐いていたのよ。」
「おや、そうだったのかい。だったら言っておやりよ。
女狐には注意するんだってね。」
「まだそんなことも、わからないような年なのよ。
まぁ、様子を伝えてくれただけでもうれしいわ。
みんなによろしくね。」
そう言ってケイトを見送った。
「おのれアルベルトめ……そういうことか。
奴はオルフェ侯爵家にエダマの街を売り渡したな!」
父はそう言うと怒りに任せてテーブルをたたいた。
「トーマス、あの絶縁状の手紙の意味はこういうことだった。
あの家には借財を一括で返すなんてことはできないからな。
ずいぶんと安くたたかれたものだ。」
「ええ、オルフェ家にとってはエダマの街が手に入るなら、はした金のようなものですから。」
私はカミル残した手紙が気になっていた。
「とある貴族」と書いてあったこと。
まさかそんなことはないだろうと思っていたが、父に聞いてみた。
「カミルが遺した『とある貴族』とは、やはりオルフェ侯爵家のことなのでしょうか?」
父はしばらく考えて、
「ない話でもないが、確証があるわけでもない。
ダイス先生の見立てどおり、大麻が絡んでいるとすれば、証拠が残されている可能性は極めて低い。
しかしアルベルトと結託してお前たちを追い出し、エダマの街を簒奪したことはよくわかった。」
離婚せざるを得なかった理由……
カミルが命を懸けて立ち向かった相手の圧倒的な力に、私は震えた。