ろくな死に方しねぇから
 依澄の本音に気づきもしない男子は、楽しげに笑いながら髪の毛をめちゃくちゃにし続けた。痺れを切らした依澄が、やめてよ、と空気を悪くさせない程度に抵抗し、さりげなく男子の腕を取る。依澄の髪の毛は寝起きの時のように乱れていた。

「はは、大変なことになってる」

「酷い男だね。こんなことしてたら女子に嫌われるよ」

「う、待って、それは突き刺さる。攻撃力が高すぎるわ」

 手で髪を撫で付ける依澄は舌を打ちたい気持ちを隠しているようだが、発した言葉には若干の棘があった。鈍感な男子は、その棘を本物ではなく偽物だと思って笑っている。二人のやりとりを見ていた人たちも、依澄の本性に気づきもせずに明朗に笑っている。人望のある人間に成り切っている依澄も、飛び出しかけた棘を瞬時に引っ込め、しっかりにこにこと笑っている。全員が、笑っている。

 何も知らなければ、依澄が極悪なヴァンパイアでなければ、ただ仲が良いだけのクラスメートに見えたはずの光景だった。口角を持ち上げている依澄に対しても、気持ち悪いといった感情は抱かないはずだった。

 依澄を尻目に、律輝は食べかけの菓子パンに齧り付いた。人を喰い殺していながら笑っている依澄が、ただひたすらに気持ち悪くて仕方がなかった。本音を隠して馴れ合っているのも、気持ち悪くて仕方がなかった。

 菓子パンに水分を取られ、喉の渇きを覚えた律輝は、ペットボトルの水を喉に流し込んだ。その際、運悪く気管に入ってしまい、激しく噎せてしまう。咄嗟に飲み口から唇を離し、手の甲で口元を隠しながら咳き込んだ。我慢したかったが、我慢しようとしてできる類のものではない。喉が熱くなるばかりで、逆に苦しいだけだった。
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