ろくな死に方しねぇから
 嘘か誠か。定かではなかったが、女子の表情を見る限り、揶揄しているようには見えなかった。モテたい男子を上手に煽てているわけではないようだ。

 律輝はペットボトルのキャップを閉め、机の上に放っているレジ袋から新たな菓子パンを取り出した。さっさと開封して口に入れる。律輝も殺し屋である前に食べ盛りの男子高校生だ。菓子パン一つでは満たされない。

「なんか、俺のこと気にしてる女子がいるのかもって思ったら、俄然やる気が出てきたわ」

「いいね。本気で挑んで、来てくれたお客さんをときめかせちゃいなよ」

「やってやる。キュンキュンさせてやる」

 目に闘志が宿った男子のモチベーションが上がった。女子に気にしてもらっているかもしれない、という確証のないたったそれだけのことで漲るパワーがあることに、律輝は温度差を感じずにはいられなかった。同時に、単純な男だと思った。律輝は菓子パンを噛みちぎった。

「明日はタキシード着て、宮間派の人を俺派にするくらい頑張るからな。見とけよ宮間」

「うん、見とくね。頑張ってね」

「おい、完全に舐めてんなこの野郎。綺麗なその髪ぐちゃぐちゃにしてやる」

 言いながら、男子が依澄の髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜた。客観的に見ても不快な馴れ合いだと感じたその刹那、律輝は見た。それまで笑っていた依澄の表情に、ほんの僅かだが嫌悪感が滲んだのを。

 形のなくなった菓子パンをごくりと飲み込む。依澄を盗み見たまま何度か瞬きをした。その間に、剥がれかけた仮面は綺麗に付け直されていた。気のせいだったのだろうか。いや、気のせいではない。髪の毛を弄ぶ男子を、依澄は一瞬でも睥睨し、不愉快な顔をしてみせた。律輝の目にはしっかり焼きついている。
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