ろくな死に方しねぇから
 裏で人を喰い殺していながら、表ではしっかり善人面をして良い子ぶっている依澄はこの手で殺す。死ぬ気で殺す。死んでも殺す。絶対に殺し損ねてはならない。それが、ヴァンパイア専門の殺し屋である律輝の使命だ。

「ねぇ、宮間くんと蓑島くんってこんな仲悪かったの?」

「びっくりだよね。声なんてほとんど聞いたことがないくらい無口な蓑島くんがめちゃくちゃ喋ってることにもびっくりだし」

「二人の会話、ペース早くて全然ついていけてないんだけど、これって私が馬鹿だから?」

「安心して。私もついていけてないから」

「ついてきてもいいことないから大丈夫だよ。なんかごめんね、驚かせて。もう終わりだから、昼食再開しよう」

 女子の会話に自然な形で入り込んだ依澄が、申し訳なさそうに眉尻を下げた。その後、気を取り直したように笑みを見せる。良い子の仮面は分厚かった。

 殺伐としていた空気が、依澄の一言で、依澄の表情で、次第に穏やかなものに変わっていく。緊張の糸が緩んでいく。不安そうにしていた人たちが、ホッと胸を撫で下ろす。

 依澄は心底胡散臭い帝王で、依澄の機嫌一つで何もかもが反転してしまう。自分以外のクラスメート全員が、依澄を崇拝する信徒のように見えた。やはり、気味の悪い人間であり、空間であり、関係であった。

 依澄との言葉での斬り合いは、一時中断だ。ここで話を元に戻すのは得策ではないだろう。互いに牙は見せ合った。相手は天敵だと認識し合った。それだけでも、十分な収穫を得られたと言える。

 緊張か。高揚か。どちらとも言えそうな胸の鼓動を感じながら、律輝はまだ食べ切れていなかった菓子パンを噛みちぎった。ヴァンパイアの中でも特に外道である依澄との戦闘が、殺し屋として生きる律輝の正念場であった。
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