ろくな死に方しねぇから
3
人気のない屋上の扉の前で、身を潜めるようにして屈んだ律輝はスマホに指を滑らせた。メッセージアプリを開き、最低限の文字を打ち込んでいく。
【今日、殺します】
送信。送り先は上司であった。
一言だけの業務連絡を済ませた律輝は、上司からの返事を待たずにスマホを閉じた。深呼吸をする。殺すと宣言したことで、気持ちが切り替わる。高校生から殺し屋へ。宮間依澄を狩るハンターへ。
画面を暗くしたスマホを、持ち歩いていたバッグにしまった律輝は腰を上げた。まだ教室に残っているであろう依澄を連れ出そうと試み、手すりに軽く触れながら階段を下りる。
既に放課後になっていた。しかしまだ、残留している生徒は多い。人気はなくても教室からは様々な声が響いており、まだまだ静まる気配はなさそうである。
文化祭前日は、毎年のように夜遅くまで準備に勤しむクラスがあった。今年もどこかのクラスが遅くまで残るだろう。律輝は残るつもりはないが、もしかしたら律輝のクラスもそうかもしれない。外が暗くなっても学校に残って準備をすることを青春の一ページとする人もいるくらいだ。律輝には分からない感覚である。危険なヴァンパイアを殺してきた時点で、これからまた新たな危険因子を殺そうと企んでいる時点で、青春など謳歌できるような人間ではなかった。
自教室のある階まで下り続け、廊下を進んだ。同学年のクラスもまだ騒がしかった。準備というよりもお喋りに興じているように聞こえるが、もう授業は終わっているため、何をしてもいい自由な時間帯である。一大イベントの前日というのも相俟ってか、放課後特有の空気は普段よりも独特なものだった。
人の声が徐々にはっきりしたものになる中、依澄を殺すために動く律輝は、緊張感を胸に携えながら廊下の角を曲がった。瞬間、出会い頭に女子と衝突しそうになり、咄嗟に踏み止まった。ハッと目を見開いた女子も足を止める。ほんの数秒、視線が絡み合った。すると、次第に女子の顔が紅潮していくのを目にした。下手に指摘せずに、赤面する女子を避けて通り過ぎようとしたが、なぜか必死な調子で腕を掴まれ止められる。
【今日、殺します】
送信。送り先は上司であった。
一言だけの業務連絡を済ませた律輝は、上司からの返事を待たずにスマホを閉じた。深呼吸をする。殺すと宣言したことで、気持ちが切り替わる。高校生から殺し屋へ。宮間依澄を狩るハンターへ。
画面を暗くしたスマホを、持ち歩いていたバッグにしまった律輝は腰を上げた。まだ教室に残っているであろう依澄を連れ出そうと試み、手すりに軽く触れながら階段を下りる。
既に放課後になっていた。しかしまだ、残留している生徒は多い。人気はなくても教室からは様々な声が響いており、まだまだ静まる気配はなさそうである。
文化祭前日は、毎年のように夜遅くまで準備に勤しむクラスがあった。今年もどこかのクラスが遅くまで残るだろう。律輝は残るつもりはないが、もしかしたら律輝のクラスもそうかもしれない。外が暗くなっても学校に残って準備をすることを青春の一ページとする人もいるくらいだ。律輝には分からない感覚である。危険なヴァンパイアを殺してきた時点で、これからまた新たな危険因子を殺そうと企んでいる時点で、青春など謳歌できるような人間ではなかった。
自教室のある階まで下り続け、廊下を進んだ。同学年のクラスもまだ騒がしかった。準備というよりもお喋りに興じているように聞こえるが、もう授業は終わっているため、何をしてもいい自由な時間帯である。一大イベントの前日というのも相俟ってか、放課後特有の空気は普段よりも独特なものだった。
人の声が徐々にはっきりしたものになる中、依澄を殺すために動く律輝は、緊張感を胸に携えながら廊下の角を曲がった。瞬間、出会い頭に女子と衝突しそうになり、咄嗟に踏み止まった。ハッと目を見開いた女子も足を止める。ほんの数秒、視線が絡み合った。すると、次第に女子の顔が紅潮していくのを目にした。下手に指摘せずに、赤面する女子を避けて通り過ぎようとしたが、なぜか必死な調子で腕を掴まれ止められる。