ろくな死に方しねぇから
「あっ、宮間くんだ。おはよう」

「おはよう」

 その瞬間、まるで陽の光を浴びたように、女子の声も教室の空気も一段と明るくなった。律輝は目だけで出入口を見遣る。にこにこと親しみやすそうな笑みを浮かべ、寄ってきた女子たちと挨拶を交わしている男がいた。嫌な顔一つせずに相手をしている男がいた。気色の悪い笑みだった。愛想の良さは嘘っぱちだった。まとわりつく女子の目を見て話を聞き、共感し、女子が求めている言葉を与え、明るく優しい性格の良い男を演じる。全ては、信頼させるため。怪しまれないようにするため。普通の人間でいるため。

 宮間依澄(いずみ)。男女問わず好かれそうな容姿や性格から、自然と人が集まるような人望のある男だった。しかし、その正体はヴァンパイアだ。それも、裏で人を喰い殺している凶悪なヴァンパイア。

 彼奴は殺すべき男だ。殺さないといけない男だ。

 依澄は抹殺対象である。速やかに殺すよう、律輝が上司から指示を受けたターゲットである。クラスメートだろうが何だろうが、人の命を喰らうヴァンパイアは始末しなければならない。次の被害が出る前に殺す必要がある。

 今はただの高校生である律輝の裏の顔は、ヴァンパイア専門の殺し屋であった。

 人間とヴァンパイアは共存している。ヴァンパイアの多くは人間に危害を加えることはないが、中にはそうではない例外もいる。その一人が依澄である。依澄のような、人の血肉を貪る攻撃的なヴァンパイアを殺すのが、律輝の所属する組織の役割であった。

 心を無にしてただ殺す。校内では人気者であったとしても、それが秘めたる凶暴性を見逃す理由にはならない。宮間依澄は、人に害をなすヴァンパイアだ。
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