イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?

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鳴海蒼(なるみあお)。
わが社の期待の大型新人。誰もが知っている大学の工学部を卒業した秀才で、一時期インターンとして顔を出していたこともあるらしい。大きくはないうちの会社を選んでくれる学生は稀で、正直言って、こんな逸材がわざわざ我が社に来てくれるなんて、人事課も鼻高々だろう。

私は、来栖真緒(くるすまお)。
新卒からこの会社にいて、もう7年目。周りは転職したり、キャリアアップを目指して異動したりしているけれど、私はここが心地よくて――特に不満もなく――ずっとこの会社に残っている。気づけば、少々お局化してしまった自分に少し呆れながらも、毎日を淡々と過ごしていた。

それでも、新人が入るとなると、やっぱり少しだけ胸が高鳴る。期待の新人が自分の部署、システム部に配属されるなんて、滅多にないことだ。

「よろしくお願いします……!」
初めて顔を合わせたときの蒼は、緊張しながらもきちんと背筋を伸ばし、爽やかな笑顔を見せる。

周囲の誰もが思わず振り返るほどの存在感だ。新人なのに、ただそこに立っているだけで、オフィスの空気が少し華やぐような気さえする。

私は思わず小さく息を吐き、心の中で呟いた。
「……きっと、すぐに私を越して、企画部に異動ね」

そして、これからの毎日が、思った以上に濃密で甘く、ちょっと危険な時間になる――そんな予感は、一切なかった。

蒼は、入社してほんの数週間で、あっという間に頭角を現した。
まず、顔立ちが爽やかで若くてイケメンだから、業者さんや取引先に覚えてもらうのも一瞬だ。誰もが「この子、どこかで見たことある」と口を揃える。

そして、仕事の呑み込みが異常に早い。
私が一度教えれば、その何倍も効率よく、しかも丁寧にこなして返してくる。データ整理も、簡単なプログラムも、資料作りも――何をやらせても完璧で、見ているだけで目が離せなくなる。

「…こんな完璧な人間って、いるのね…」
心の中で、思わず漏れた独り言。頭では理解しているのに、胸は熱くなり、無意識に手元の書類をぎゅっと握りしめていた。

しかも、蒼は私にめちゃくちゃ優しい。
他の男性社員は、女である私に対しても、男性社員と同じように扱う。私も長年それに慣れてしまっているから、特に気にも留めなかった。
でも蒼は違う。
質問すれば丁寧に答え、少しでも困っていればすぐに助けてくれる。
何気ない会話でも、目をまっすぐに見て、笑顔で応えてくれる。
まるで――私がお姫様か何かであるかのように扱われるのだ。

調子が狂う――。
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