偽りの恋人契約でしたが、御曹司社長に抱き潰されました
社長は数枚の書類の中から、一枚を抜き取ると、それを軽く掲げた。

「……ああ、これだ。」

低く響く声とともに差し出されたのは、件の稟議書だった。

私は慌ててそれを両手で受け取り、背後で待っていた桐原君へと渡す。

「助かりました。」

そう言って桐原君は社長に丁寧に一礼し、ふっと私に向かってウィンクを飛ばしてくる。

——まったく、ああいうところが女たらしって言われるんだよ。

心の中でため息をつく。私はウィンクを軽く受け流しながら扉を閉めようとした——その時だった。

「……ああいうのが、好きか?」

ぼそりと呟くような低音が背後から響いた。ドキッとして振り返る。

「えっ?」

霧島社長が、じっと私を見ていた。その視線の真剣さに思わず背筋が伸びる。

「桐原君は、ただの同僚です。」
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