野いちご源氏物語 三七 鈴虫(すずむし)
いろいろな(げん)楽器(がっき)で合奏をなさって、すばらしい音楽会になる。
「秋の月はいつでもしみじみするものですが、十五夜(じゅうごや)の月の光は格別ですね。清々(すがすが)しく()んで、あの世のことまで見せてくれそうな気がする。亡き権大納言(ごんだいなごん)はどうしているだろうか」
衛門(えもん)(かみ)様のことを、源氏(げんじ)(きみ)は「権大納言」ときちんとお呼びになった。
「あの人のことが(おり)につけて思い出されるのです。こういうときにいないのが悲しい。どんな会でもあの人がいれば優しく風雅(ふうが)な魅力が増したものです。本当の風流を分かっていて、話しているだけでも楽しい人だったのに」
(きん)を弾きながら涙ぐまれる。

衛門の督様を(うら)む気持ちと()しむ気持ち。
尼宮(あまみや)様を(とが)める気持ちと気の毒に思う気持ち。
正反対の感情が源氏の君のなかで等しく存在している。
「今さらどうしようもない話をしてしまいましたね。今夜は鈴虫(すずむし)(うたげ)ということにして仕切りなおしましょう。朝まで楽しもうではありませんか」
どの感情にも振りまわされまいと、明るいお声でおっしゃる。
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