野いちご源氏物語 三七 鈴虫(すずむし)
仏像(ぶつぞう)のお披露目(ひろめ)(かい)が行われる。
源氏(げんじ)(きみ)尼宮(あまみや)様をお訪ねになると、いつものお部屋は仏像やお道具に譲って、(せま)いところを仮のお部屋にしていらっしゃる。
そこに着飾った女房(にょうぼう)が五、六十人も集まっているの。
(こう)()く道具をたくさん出して、けむたいほどに燃やしている。

「こういうお香は、どこから(ただよ)ってくるのだろうと思わせるくらいほのかに焚くのがよいのだ。これでは富士山(ふじさん)(けむり)よりももくもくとしていていけない。それから、今日の会では僧侶(そうりょ)がありがたいお話をなさる。心を落ち着かせて静かに聞くべきだから、着物の音や話し声などを立てないように」
尼宮様にお仕えしているのは浮ついた若い女房が多い。
源氏の君は基本的なことから丁寧にお教えになるの。

尼宮様は人が多いのに早くも疲れてしまわれて、物陰(ものかげ)で小さく横たわっていらっしゃる。
若君(わかぎみ)がうるさくするといけない。お抱きして離れたところにお連れせよ」
若君はまだこういう場で大人しくできるお年ではないから、源氏の君は会場から遠ざけなさった。
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