温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
「……波瑠、そろそろ俺は行かなくてはならない」
穏やかな声に、波瑠は思わず顔を上げた。

「え……どちらへ?」

「自宅に帰って、仕事だ。シャワーを浴びて着替えたい」
淡々と告げる圭吾の姿に、昨夜の熱とは別の“大人の男”を感じて、胸がきゅっとなる。

「……こんなにしていただいて、本当にありがとうございます」
波瑠はバスローブの襟を整えながら、小さく頭を下げた。

そして、ふと遠慮がちに続ける。
「あの……お忙しいでしょうから、無理に戻られなくても。改めて、後日お礼させてくださいね」

言葉とは裏腹に、胸の奥では「もう少し一緒にいたい」と願っている自分に気づき、唇を噛む。

圭吾はそんな彼女をしばし見つめ、ゆるやかに目を細めた。
「……後日、ではなく。君には、これからも何度でも礼をしてもらう」
その声音は、温厚さの奥に潜む俺様の響きを宿していた。

圭吾が立ち上がり、ジャケットを羽織りながらふと振り返った。

「……波瑠、携帯番号を教えてくれ」

「え……はい」
頬を赤らめながら慌てて番号を伝えると、圭吾は手際よく登録し、短く頷いた。

「スパでは携帯の使用は禁止だからな。……終わった後に必ずチェックしてくれ」
その声音は穏やかだが、有無を言わせない迫力を帯びている。

「俺が迎えに行く。逃げるなよ」

「っ……」

波瑠の胸が大きく鳴った。
優しい笑みとともに投げかけられたその一言は、約束であると同時に、甘い束縛だった。

(……もう逃げられない。だけど…逃げたくない)

頬を染めた波瑠の姿に、圭吾は満足げに目を細め、静かに部屋を後にした。

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