温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
小一時間ほどして、圭吾が手元のPCを閉じた。
椅子から立ち上がり、ソファーに目を向ける。

「……気分はどうだ?」

波瑠は背筋を伸ばし、慌てて微笑んだ。
「すっかり酔いがさめました。どうもありがとうございました」

形式ばった言葉。
けれど胸の奥では、(もうだめ……ここには居られない)と悲鳴のような声が響いていた。

ずっと抑えてきた想いが、溢れてきそうになる。
どうにか平静を装おうとするが、表情も声もぎこちなくなり、かえって不自然に見えてしまう。

圭吾は黙って彼女を見つめていた。
温厚そうな微笑の奥で、その瞳には、何かを見抜くような鋭い光が宿っていた。

「では、失礼します。……夜景も最高のプレゼントになりました。ありがとうございます」
波瑠は無理やり笑顔を作り、立ち上がった。

「待て」
背後から低い声が落ちる。

「ここからタクシーで帰るので大丈夫ですよ」
そう言って後ずさろうとした瞬間。

圭吾の手が伸び、波瑠の手首を掴む。
「待て、と言っているんだ」

片方の腕が彼女の腰を捕らえ、逃げ場を塞ぐ。
「な、なにをするんですか……!」

圭吾の瞳が真っ直ぐに射抜く。
「何を隠している?」
低く、逃げられない迫力で詰め寄られる。

波瑠の胸は激しく脈打ち、呼吸が乱れる。
隠してきた気持ち…心の奥に押し込めてきた憧れと恋心が、いま暴かれようとしていた。

「……何を隠している?」
圭吾の低い声が、逃げ場を奪うように迫る。

「……隠してなんか……いません……」
波瑠はかすれ声で必死に答える。

けれど、言葉とは裏腹に、瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
「……っ」
慌てて顔をそむけるが、涙は次々に溢れてくる。

「隠していない?」
圭吾の声がさらに低くなった。
「なら……その涙はなんだ」

腰を捕らえた腕の力が強まる。
逃げ場を失った波瑠は、胸の奥に押し込めていた思いが一気にせり上がってくるのを感じた。

(だめ……これは、言っちゃいけないのに……!)

止めようとすればするほど、心が震え、涙が止まらない。
圭吾の視線がそれを射抜き、波瑠の“隠れた恋心”は、いまにも言葉になってしまいそうだった。

圭吾は震える波瑠の体を抱きかかえ、寝室の扉を押し開けた。
重厚な扉が閉まる音と同時に、ベッドへと彼女を横たえる。
その動きは乱暴に見えて、実際は落とさぬように強く、確かに抱きしめていた。

「波瑠」

圭吾の影が覆いかぶさり、熱を帯びた視線が真っすぐに射抜く。
組み敷かれた体に逃げ場はなく、胸の鼓動が暴れるように高鳴る。

「言え」
低い声が耳元を震わせる。
「……言うんだ。君が隠している気持ちを」

波瑠は必死に首を振る。
「な、何も……隠してなんか……」
けれど、涙とともに喉が震え、言葉は続かない。

圭吾の唇が、ゆっくりと波瑠の唇に降りてきた。
触れるか触れないかの微かな口づけ。その優しさに、波瑠の全身が震える。

そして、彼は角度を変えながら、何度も何度も唇を重ねていく。
深く、じっくりと。
決して急がず、焦らず、まるで彼女の心を溶かすように。

波瑠の瞳から、ふたたび涙が零れ落ちた。
けれどそれは悲しみの涙ではなかった。
(ああ……これが……ずっと隠してきた私の想い……)

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