空気みたいだとあなたが仰ったので。~地味令嬢は我慢をやめることにした~
 ひゅ、と小さく息を吸う。

「ええ、そうですわね。わたし、リリアナ様と何度かお話ししようとしたことがありますけれど……まるで空気のようでしたわ。申し訳ないのですが、見つけることができなくて……」

「だろう? あいつは本当に影が薄い。僕の婚約者なんだけれど、そばにいても全く存在感がないんだ。何を話してもつまらないし、華やかさもない。だから、こうしてカミラと一緒にいる方がずっと楽しいんだよ」

「まぁ、うれしい……!」

「すぐにでも婚約破棄したいんだが、エバンス伯爵家はなにかと厄介だからな……。だが僕は絶対にリリアナとは破談にして、カミラと幸せを掴んでみせるよ」

「お待ちしておりますわ、エドワード様っ……!」

 二人は再び甘ったるい雰囲気になり、絡みつくように抱きしめ合う。
 そしてうっとりと見つめ合ったかと思うと二人の影はしっかりと重なった。
 長い。そして長い。

 耐えられなくなった私は静かに立ち上がり、二人の前へと歩み出ることにした。

「お邪魔いたしますわ」

 エドワード様とカミラさんが弾かれたように私を見る。

「え……リリアナ? どうしてここに」

「驚きましたわ。『まるで空気のような私』が、ちゃんとお二人の目に映っていらっしゃいますのね」

 言葉に棘を込め、私はじっとエドワード様を見つめた。

「お二人が仲睦まじいのは結構なこと。でも、私のことを『つまらない』ですとか『存在感がない』ですとか……随分な言いようですね」

 エドワード様はバツが悪そうに顔をしかめ、カミラさんは怯えたような表情を浮かべた。

「いや……その、リリアナ、これは……」

「……もう結構です。私は、あなたの求めるような華やかさも、可憐さも持ち合わせていませんもの」

 静かに微笑み、言葉を続ける。

「ですが……私が影のように慎ましく生きてきたのは、他でもないあなたがそう望んだから、でしょう?」

 エドワード様の顔が強張る。
 幼い頃から、祖父の頃の縁だとかで婚約することになったエドワード様には何度も言われてきた。

『控えめにしろ。慎ましくしろ。僕より目立つな』

 なにかと注文の多い人だったけど、合わせるよう努力した。
 貴族令嬢として。政略結婚ではあるけれど、彼の理想の婚約者であるために。

 剣術の稽古も、意見を述べることも、舞踏会で目立つことも――全て「エドワード様のため」と信じて辞めた。
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