下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
アベルが眼鏡を軽く持ち上げた。その時、彼の袖口のボタンが、今にも外れそうになっていることにニコラは気づいた。
「アベルさん。ボタンが……」
「はい?……ああ、あとで直してもらいます」
「あ、私やりますよ!」
「貴方には他に優先すべき作業があるでしょう」
「ボタン一つ、すぐです」
ニコラはそう言ってアベルの右腕をそっと取り、緩みかけたボタンを丁寧に外す。すぐ手が届く場所に、ちょうど良い色の糸を通した針があった。それを手に取ると、迷いなく縫い付けに取りかかった。れは確かにすぐだった。
ニコラが口で糸を切ると小気味良い音がした。
「どうですか?」
アベルは腕を曲げて、付け直してもらったボタンを確認する。何も問題ない。
「……貴方は、自分で自分の首を絞めるのが得意そうですね」
アベルの言葉にニコラはきょとんとした。
ライアンがここにいたら「そう言うときは『ありがとう!』って言うんだよ」と言って笑われそうだ、と、アベルは思った。
糸を片付けているニコラの背中に、アベルは問いかけた。
「シンシア・グローリーが手がけた刺繍を、見てみたいですか?」
思いがけない言葉にニコラは振り返った。
「……あるんですか?」
「シンシア・グローリーの情報を提供してくださった方に特別な許可をいただければ、ですが」
「そんなことが出来るんですか?」
「可能です。私の兄が仕えている方の所蔵品なので」
「ありがとうございます!戴冠式のマントの刺繍、その、なんとなくイメージは浮かんでいるんですけど、ちゃんと形にするにはやっぱりまだ何かが足りなくて……だから本当に助かります!」
「……許可をいただくのは、貴方の叔父にあたる人物です」
浮き足立っていたニコラの表情が硬まった。
「今、なんて……?」
「私の兄が仕えているのは、貴方の亡くなったお母様の弟君で、名前はルカ・エリクセン・カーチス。年は確か二十六歳だったと思います。……若くしてカーチス家を動かしている大変有能な方です」
アベルはもう一度、ゆっくりと尋ねた。
「彼と、会いますか?」
「アベルさん。ボタンが……」
「はい?……ああ、あとで直してもらいます」
「あ、私やりますよ!」
「貴方には他に優先すべき作業があるでしょう」
「ボタン一つ、すぐです」
ニコラはそう言ってアベルの右腕をそっと取り、緩みかけたボタンを丁寧に外す。すぐ手が届く場所に、ちょうど良い色の糸を通した針があった。それを手に取ると、迷いなく縫い付けに取りかかった。れは確かにすぐだった。
ニコラが口で糸を切ると小気味良い音がした。
「どうですか?」
アベルは腕を曲げて、付け直してもらったボタンを確認する。何も問題ない。
「……貴方は、自分で自分の首を絞めるのが得意そうですね」
アベルの言葉にニコラはきょとんとした。
ライアンがここにいたら「そう言うときは『ありがとう!』って言うんだよ」と言って笑われそうだ、と、アベルは思った。
糸を片付けているニコラの背中に、アベルは問いかけた。
「シンシア・グローリーが手がけた刺繍を、見てみたいですか?」
思いがけない言葉にニコラは振り返った。
「……あるんですか?」
「シンシア・グローリーの情報を提供してくださった方に特別な許可をいただければ、ですが」
「そんなことが出来るんですか?」
「可能です。私の兄が仕えている方の所蔵品なので」
「ありがとうございます!戴冠式のマントの刺繍、その、なんとなくイメージは浮かんでいるんですけど、ちゃんと形にするにはやっぱりまだ何かが足りなくて……だから本当に助かります!」
「……許可をいただくのは、貴方の叔父にあたる人物です」
浮き足立っていたニコラの表情が硬まった。
「今、なんて……?」
「私の兄が仕えているのは、貴方の亡くなったお母様の弟君で、名前はルカ・エリクセン・カーチス。年は確か二十六歳だったと思います。……若くしてカーチス家を動かしている大変有能な方です」
アベルはもう一度、ゆっくりと尋ねた。
「彼と、会いますか?」