下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
エピローグ
お針子店『Charlotte―シャルロット―』に、エプロン姿のニコラの姿があった。
怒涛の日々から、もうすぐ一週間が経とうとしていた。
普段のお針子業も決して暇というほど暇ではなかったはずだが、王宮での例の仕事を終えたあとだと、少し物足りない。
夕方になり、西日が窓辺に差し込む頃。作業の手を止めて片づけを始めたそのとき、扉のベルが軽やかに鳴った。
振り返ると、そこには見覚えのある少年が立っていた。
「服を仕立ててもらいたいのだが」
少年は一言そう言った。
もう会うことはないだろうと思っていた相手だったのでニコラは驚いた。
店に入って来たのは彼一人。まさか一人で?と不安な面持ちで窓の外を見ると、店の前に馬車が停まっている。馬車の外には、これまた見覚えのある兎耳の男性が立っていた。彼は笑顔で軽く手を振ってくる。思わず、ニコラも笑って手を振り返した。
ニコラは少年へと向き直り、腰に手を当てて言った。
「さて、どんな服をご所望でしょう?」
「これから下町を知るためにこの姿で通うことにした。町で歩いても浮かない服が欲しい」
ニコラはだんだん面白くなってきた。
「それなら、まずは採寸しなきゃですね」
「この姿だと寝転がる必要がなくて楽だな」
少年のその言葉に、ニコラはもう堪えきれなくなって笑い声を上げた。
そうだ。
またお茶を淹れて、クッキーを用意して、馬車の中で待っているライアンさんを呼ぼう。
そして親友のケイトに、改めて小さなお友達を紹介しよう。
────ニコラと王様の物語は、まだ始まったばかり。
《第一部 完》
怒涛の日々から、もうすぐ一週間が経とうとしていた。
普段のお針子業も決して暇というほど暇ではなかったはずだが、王宮での例の仕事を終えたあとだと、少し物足りない。
夕方になり、西日が窓辺に差し込む頃。作業の手を止めて片づけを始めたそのとき、扉のベルが軽やかに鳴った。
振り返ると、そこには見覚えのある少年が立っていた。
「服を仕立ててもらいたいのだが」
少年は一言そう言った。
もう会うことはないだろうと思っていた相手だったのでニコラは驚いた。
店に入って来たのは彼一人。まさか一人で?と不安な面持ちで窓の外を見ると、店の前に馬車が停まっている。馬車の外には、これまた見覚えのある兎耳の男性が立っていた。彼は笑顔で軽く手を振ってくる。思わず、ニコラも笑って手を振り返した。
ニコラは少年へと向き直り、腰に手を当てて言った。
「さて、どんな服をご所望でしょう?」
「これから下町を知るためにこの姿で通うことにした。町で歩いても浮かない服が欲しい」
ニコラはだんだん面白くなってきた。
「それなら、まずは採寸しなきゃですね」
「この姿だと寝転がる必要がなくて楽だな」
少年のその言葉に、ニコラはもう堪えきれなくなって笑い声を上げた。
そうだ。
またお茶を淹れて、クッキーを用意して、馬車の中で待っているライアンさんを呼ぼう。
そして親友のケイトに、改めて小さなお友達を紹介しよう。
────ニコラと王様の物語は、まだ始まったばかり。
《第一部 完》