Dearest


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私と木崎くんは、学園祭の後夜祭の担当で、内容やら当日の運営やら、とにかく後夜祭に関わる全ての事を任されていた。

ユキくんは、学園祭内の目玉のステージイベントの係になったので、今はクラス企画以外はユキくんといる時間は少ない。

なぜか急いで戻った教室には、他の後夜祭メンバーがもう揃っていて、「遅れてすみません」と言いながら作業に混ざった。

「木崎は?」と聞かれて、ドキッとした。
それでも私は知らないフリをして、曖昧に、分からないと答えたのだった。


結局その日、木崎くんは現れなかった。
日が落ちて暗くなった帰り道を、今日は一人で歩く。

スマホには、木崎くんからのメッセージが届いていて、内容は今日来れなかったことへの謝罪だった。
全然いいよ、と自分の気持ちとは違う言葉を並べてメッセージを送った。

なんだか急に、悲しくなって鼻の奥がツンと痛い。
ほんの数ヶ月前まで、何とも思ってなかった。ほんの数時間まで、特別な気持ちなんて持ってないつもりだった。

狡い。
近づいて、離れるなんて狡い。
私なんかに優しくしてくれるから、勘違いしてしまった。まともに、受け取ってしまった。

私には勿体無いくらい、魅力的な人だった。
少しだけ知ったら、もっと知りたくなる。
みんなそう思うから、だからみんな木崎くんの事を好きになる。
きっと、あの美人の先輩だってそうだ。
…違う。彼女の場合は、木崎くんのほうが彼女のことを好きなんだ。

ほんの数週間で、いきなり膨らんだ気持ちなんだから、きっとまた数週間したらすぐに絞むんじゃないか。
そうであってほしい、と本気で思う。

スマホから気の抜けるような効果音が聞こえて、ディスプレイに出てきた木崎くんのメッセージに思わず嬉しくなってしまう自分が、今は悲しい。


それから、私なりに自然に距離感を図りながら木崎くんと接した…つもりだ。
それでもやっぱり、校舎で木崎くんを見かければドキッとするし、今までみたいに普通に「おはよう」が言えた自信もない。
木崎くんを見る度に、あの美人な先輩が脳裏をよぎる。
どう見てもお似合いだったし、そういう噂も良く耳にしていた。

学園祭の前日には、なんとか準備が終わった。
クラスの出しものも、後夜祭も、あとは本番を待つだけ。
私と木崎くんの接点も、明日で無くなる。



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