Dearest
歩き疲れて校舎の端っこのベンチに座ってユキくんが買ってくれたタピオカジュースを飲んでいたら、隣でユキくんが口を開いた。
「わりぃ、心。木崎に誤解させたかな、俺…」
「…ううん、そんなユキくんが謝ることじゃないよ!」
「超怖かったじゃん、…殺されるかも」
「ふふ、そんなことないよ。誤解、するも何もないし…」
「ま、ま、万が一、俺と心が付き合ってると思ってたら…?」
「私とユキくんが?ふふ、それはないよ」
「いやいや、俺らはね。そうだけどさ。木崎のあの態度!絶対やばいって」
…確かに、今まで見た事のない木崎くんだった。
でも木崎くんが、ユキくんに嫉妬をするなんてあり得ないのだ。木崎くんの特別な人は私じゃない。
木崎くんが怒っているとしたら、ここ数日の私の不自然な態度じゃないかな…
いきなり、あんな不自然な態度とられたら良い気分はしないのでは、と今になって思う。
だから、木崎くんが怒っているのはユキくんじゃなくて、私だ。
「私がね、最近木崎くんと上手く接してなかったから…、多分私に怒ってる。だからユキくんは気にしないで」
「心、木崎のこと好きなんじゃねえの?」
普段はふざけていてお調子者のユキくんが、私の瞳をじっと見つめる。
こんな時だけ、真剣な表情をするんだ。
「………うん、そうみたい…」
「はあ~やっと認めた…美亜に聞かせてやりたい…」
「でも、木崎くんは私じゃない」
「…ん?どゆこと?」
「この間ね、見たの。あの綺麗な先輩と、一緒にいるところ」
「あー…、美月先輩…?だっけ」
「そう。その先輩と木崎くんの空気感がね、すごく良くて。どう見てもお似合いだし…」
美男美女、だった。
私は木崎くんと、あんな空気感を作り出せないと思った。
勝ち負けじゃないって分かっているけど、もう見た瞬間から、違う、私じゃないって思ったのだ。
「まあ、あの二人は確かに絵になるけど」
「多分、木崎くんはあの先輩のこと好きだと思う」
「ん?なんで?明らか心しか見えてなさそうだけど」
「先輩といる時の木崎くん、私といる時と全然違ってた。お互い好きだけど何か事情があって付き合えないのかなって。自惚れちゃってたのが恥ずかしい…」
本当に、何舞い上がっていたんだろう、私。
よく考えたら、あり得ないのに。
「それで?」
「…へ?」
「木崎の事情は、本人に聞かなきゃ分かんねーよ。だからそれは別問題として、さ。木崎は心に何回も伝えてくれてんのに、心は言わねえの?」
「…だって、言ったって……」
「そう思ってんなら、断ればいいし、やっぱ好きならそう言ったほうがいい。何も言ってくれないのが、一番キツいっしょ」
ユキくんの言葉に、霧が覚めたようにハッとした。
何一つ、木崎くんに伝えてないのに、勝手に先輩に嫉妬したり、そんなのおかしい。
木崎くんの気持ちを無視してるのと一緒だ。
「今日のあの反応からすると、木崎の気持ちもすぐ分かるけどなあ。だから何で心が言わないのか、わかんねえ。俺と美亜がどんだけウズウズしたことか…」
「…ご、ごめん……何も気づかなくて…本当に私って最低だよね…」
「待て待て待て。心はいい子。自己嫌悪とか止めて」
「…ありがとう、ユキくん。私、今日木崎くんに伝える」
うん、それがいい、って笑ったユキくんを見て、やっと気持ちが落ち着いた。
まずは後夜祭を成功させて、それから木崎くんに伝える。
明日は、美亜とユキくんと拓くんに慰めてもらおう。