Dearest
お客さんの波も、少し収まり、私たちのシフト時間は終わった。
美亜は拓くんと一緒に出て行って、私はユキくんと一緒に校舎内を回ってくることにした。
「ユキくん、どこ行きたい?」
「あー……、メイド喫茶!!!」
「ふふ。そういえばこの間も言ってたね」
「可愛い子いるかなあ~」
人の波に沿って歩いていたら、いつの間にか木崎くん達のクラスのエリアに来ていた。
一段と人の量がすごいのは、木崎くんのクラスだからか。
「さすが木崎。すげーなあ」
「…ね…」
「そんな木崎に好かれる心はもっとすげーなあ~」
ユキくんはそう言いながら、私の頭をポンポンと叩く。
「好かれてないよっ…!」
「まだそれ言うー?逆に木崎が可哀想になってくるわ、あそこまでストレートに言ってくれてんのにさ」
人が押し寄せて、ユキくんと少し離れてしまった。
振り向いて私を探すユキくんを見失わないように必死になっていたら、ユキくんはなんとか私のところに来てくれて、躊躇なく私の手を掴んだ。
「フラフラしてると、はぐれる」
「あ、ごめんっ…」
ユキくんの手は少し冷たくて、人混みで生温い空気のなかでは心地良かった。
「タピオカ、飲む?」
「う、うんっ…」
返事をした後で、タピオカを出しているのは木崎くんのクラスで、さらに今売り子をしているのは木崎くんだという事に気が付いた。
白いTシャツの上から来た黒いエプロン姿がとても良く似合っている。
木崎くんも真面目に売り子とかやるんだ…
割とお客さんの回転が早く、すぐに私たちの順番がきた。
ユキくんに手を引かれて、真剣に働いている木崎くんと、いつも通り楽しそうなツカサくんの目の前に来る。
「あ、心ちん~!今日も可愛い、めっちゃ可愛い~!」
「そ、そんなことないよっ…」
相変わらず、ツカサくんは褒めるのが上手だ。
「来てくれたの~?」
「うん!すごいね、大盛況!」
「まあー、この方がいらっしゃいますんで」
グッと木崎くんに近づくツカサくんを、嫌そうに見る木崎くんと目が合う。
すぐに木崎くんの視線が下に落ちたのに気が付いて、思わずユキくんに引かれていた手を離してしまった。
「心ー、何にする?」
「んー…、ユキくんはどれがいい?」
ユキくんに決めてもらって、木崎くんが作ってくれたものを受け取る。
なんだか気まずい私と木崎くんの間の空気が、やけに居心地が悪い。
「…あ、ありがとう…また、後で、ね」
「ん」
木崎くんはいつもの笑顔を少しも向けてくれなくて、小さく返事をしただけだった。
「笑って笑って~、接客の基本ですよ~」
ツカサくんの言葉に救われた。
私が何をしようが、木崎くんが何をしようが、私たちはお互いに咎められる関係じゃないのに何故か気まずい。